フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】

「えっ、わたしの支度が終わるまでずーっとここで待ってたの?」

——だったら、かなりびっくりなんだけど!

「まさか。階上(うえ)のラウンジでコーヒーを飲んでいたら、サロンから支度が整ったと連絡が来たから迎えに下りてきたんだ」

バンケットルームのフロアには、VIPの人たちが商談に使うティーラウンジがあった。

——ま、そりゃそうよね。

気配り満点の竜生くんが指示して連絡を入れさせたのだろう。


それから、一番奥にある途中の(フロア)飛ば(スキップ)して昇っていく高層階専用の機に向かう。

このホテルに住んでいた三年ほどの間、毎日使っていたのでなんだか懐かしい。

——そんなに前でもないはずなのに、ずいぶん経ったような気がするわ……

小笠原がパネルの△を押すと、すぐに扉がすーっと開き、わたしたちは中へ乗り込んだ。


扉が閉まると箱の中は二人きりで、ほかに誰もいない。

小笠原が目指すフロアの数字を押す。

数秒後、床がふわりと浮いて機がどんどん上昇していく。

—— 小笠原()とは、別に話すこともないしなぁ……

扉の上の数字が、みるみるうちに10…11…12…13…14…15…と移り変わっていくのを見るともなしに見つめる。

——エレベーターの中って、どうしてこんなに気まずい空気が流れるんだろう?


そのうち首が疲れてきたので俯くと、パールビーズに覆われたコンパクトクラッチ(バッグ)を持つ自分の左手が目に入った。

その薬指にあるのは——メレリオ・ディ・メレーの「アネル」という結婚指輪(マリッジリング)だ。

今まではパーティに出席しても、左指には同じメレリオでも婚約指輪(エンゲージリング)の方をつけていたが、今夜はそちらを右指につけている。


さりげなーく小笠原の左手に目を向けると、そこには同じデザインの結婚指輪があった。

——たとえ、政略結婚&契約結婚&偽装結婚の末の白い結婚であっても……一応は「夫婦」だもんね。

イエローゴールドでしかも幅が五ミリほどもあるリングだが、その「存在感」にまったく負けてなくて、むしろ彼の長くて筋張った指にしっくりと似合っていた。


「そのリング……サイズがぴったり合っていて良かった」

不意に、小笠原が口を開いた。
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