フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「いえっ、こんなど庶民のわたしたちなんかに、そんなご丁寧に……」
青山氏の妻が、目の前で手を左右に振って恐縮する。
「——ややちゃん、謙遜するのは奥ゆかしい行為だとは思うけどね」
小笠原の言葉が標準語になり、心なしか声が低くなった。
「今の青山は、会社では執行役員なんだ。決して『ど庶民』ではないよ。
そんなふうに妻の君が卑屈になっていたら、夫の青山がいたたまれない気持ちになるよ。
だから、このようなパーティの場では君はもっと堂々としていないとダメだよ」
—— へぇ、青山氏はこんなに若くしてもう執行役員なんだ……
どうやら、わたしたちのように「家ガチャ」に恵まれて棚ぼた的に手にした地位ではないようだ。
青山氏の怜悧冷徹な風貌は、いかにも仕事ができそうな「切れ者感」を漂わせていた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
ご主人とは中学・高校時代からの友人で、現在は(株)ステーショナリーネットに勤務しております青山 智史と申します。こちらは妻の稍です」
威儀を正した青山氏から、標準語で丁重なご挨拶が返ってきた。
老舗の文具メーカー萬年堂の傘下である(株)ステーショナリーネットは、業界内ではいち早くECサイトを活用して急激に業績を伸ばしたオフィス用品のネット通販会社だ。
「先ほどは失礼しました。妻の青山 稍と申します。
わたくしも(株)ステーショナリーネットに勤めております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
改まった青山氏の妻からは、ものすごく綺麗なお辞儀が返ってきた。
——あれ?
お二人とも『ステーショナリーネット』にお勤めされてるってことは……
「あの……以前、そちらの会社にわたくしの兄・佐久間 恭介が産業医として御社に勤務しておりました。
その折には、たいへんお世話になりました」
昨年、総合診療医の兄がベリーヒルズビレッジ総合病院の副院長に就任することになって二足の草鞋を履くことが困難となったため、ステーショナリーネットを退職したのだ。
「また、嫂の佐久間——いえ、渡辺 麻琴は結婚・出産を経ても御社に勤務しておりまして、いつもお世話になっております」
義姉は産休・育休を活用しながら現在も勤めていて、会社では今でも旧姓を使用していると聞いている。
厳密に言うと、今は同じ傘下の(株)ロハスライフという生活用品全般のネット通販会社の所属らしいけれども。
「えっ……あっ、そうか!
レイカさんは……佐久間医師の妹さんでしたね!」
青山氏の妻——あぁ、しちめんどくさい——稍さんの顔がばぁーっと明るくなる。
「佐久間さんご夫妻とは家族ぐるみで仲良くさせてもらっています。
同じマンションに住んでいますし、麻琴さんとは会社の同僚というよりも今ではすっかりママ友なんですよ!」
何度でも言うわ……
——いくらなんでも、世の中狭すぎでしょうよっ⁉︎