フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
青山夫妻と離れたあと、速攻で通常モードに戻った小笠原がぼそり、とつぶやいた。
「——それにしても、青山と君のお兄さんがそんなに懇意にしていたとはな。
人の縁って、どこでどう繋がってるかわからないもんだなぁ……って言うか、世の中狭すぎだろ?」
やはり、彼も同じことを思っていたようだ。
「先刻は……せっかく君が青山たちの前で『上流階級の妻』の役目を果たしてくれてたっていうのに、おれがいつもの態度のままで悪かったな」
「……あぁ、稍さんの『美しすぎる誤解』ね。あんなに褒めてもらって、びっくりしたわよ」
わたしはふふっ、と笑った。
「青山たちだったからこそ、何事もなくうまく誤魔化せたけどな。
他のヤツらが相手では、そうはいかないだろう。
そもそもこのパーティへ出席したのは、おれたちが『公の場』に二人で出て行って『仲の良い夫婦』を見せて、マスコミに余計な詮索させないってことだったのにな」
——そうだった!
週刊古湖などにわたしたちの政略結婚の上の契約結婚の果ての真っ白い偽装結婚がバレてスクープされないように、マスコミ対策として仲の良い「演技」をしなければならなかったのを……改めて思い出した。
「このあと会う相手には、より『夫婦らしく』振る舞うぞ」
「ええ、そうね」
わたしはしっかりと肯いた。
「だから、これからは君のことを『レイカ』と呼ぶ。君もおれのことを名前で呼んでほしい」
——えっ?……うそっ、わたしも?
だけど、『より夫婦らしく振る舞う』ためには必要不可欠な指令だ。
「わ、わかったわ……た、武尊さん」
一応、名前呼びはしてみたものの、声が上擦って噛み気味になってしまった。
——うわっ、こっ恥ずかしい……っ!
小笠原——もとい、武尊さんがバンケットルーム内をぐるりと見渡した。
「それにしても……拓真のヤツ、まだ会場入りしてないみたいだな」
すでに乾杯するためのシャンパンが配られているというのに、まだ神宮寺 タケル先生の姿はないようだ。
——よ、よかった……名前呼びを噛んでしまったのは気づいてないみたいね。
「だ、だったら、今のうちにちょっとお化粧直しに行ってくるわ」
なんだか急に頬が熱ってきた気がしたので、わたしはそう告げた。
そして、彼の肘に置いていた手をほどくと、すれ違ったバンケットスタッフにシャンパングラスを渡して、いそいそとバンケットルームを出た。