フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
——ただ、シンプルに……ムカつくわね。
込み上げてくるムカつきを鎮めて気を落ち着けさせるために、わたしはゆっくりと息を吐いた。
「——仮に、わたしがあなたの業務妨害にあたる行為をしてしまったとして……」
改めて、彼女をしっかりと真正面から見据える。
「それでも、その行為を許してそのまま継続しているのは——わたしの夫の判断によるものではなくて?」
わたしたちの「結婚」は、当人同士の意思などまったく反映されていない、互いの家が先祖代々経営する「家業」のための「政略結婚」だというのに……
彼女は狭量なごく「個人的な感情」によって、すっかり忘れてしまったようだ。
「わたしの夫——武尊さんとわたしの結婚は、日本の経済界に関わるものなの」
「結婚」したのは、わたしの実家の「江戸屋」と彼の実家の「大坂百貨店」なのだ。
「あなたが武尊さんにどのような気持ちを抱こうが、二人が今までどのような関係にあろうが、わたしは知らないわ。
だけど、もし週刊誌に『大坂江戸屋の御曹司が秘書を愛人にしている』なんてスキャンダルとして書き立てられれば……
このご時世、法令遵守にうるさいのはあなたもご存知でしょう?
せっかく紆余曲折を経て合併したのに、大坂江戸屋百貨店の信用はガタ落ちになるわね。
下手をすれば株価が下落し、取引先の企業にまで影響を及ぼすことになりかねないわ。
その影響は社員だけじゃなく、その家族の人生までも狂わせるかもしれないのよ」
大企業の創業家は、一族全体で、いつもその重圧を背負っているのだ。
——とっとと逃げて行ったヤツらもいるけどね。
まんまと逃げ遅れてしまったわたしは、兄や従兄弟たちの顔を思い浮かべた。
「そうなると、武尊さんは役職を投げうってでも、責任を取らなければならなくなるわね。
わたしの目には、帰国後の彼のあなたに対する行動は企業の経営戦略に携わる者として危機回避するためのリスクマネジメントの一環であるように見えるんだけど?」
実際はどうだか皆目わからないが、口から出まかせでそう言っておいた。
——もしかしたら、難しい用語の使い方が間違ってるかもしれないけど、いいや。
そして、彼女の目を見て問いただす。
「そもそも、あなた——ちゃんと覚悟をしてわたしに言ってるんでしょうね?」
——その覚悟の下で「江戸屋」の娘であるわたしにケンカを売ってる?