フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
やれやれ……と思ったのも束の間、Andr◯idをサイドテーブルに置いたとたん隣のiPh◯neが鳴った。
プラベ用のスマホだ。
ディスプレイを覗き込むと、なんとめずらしい。
わたしの母からであった。
「……あら、ママ。ひさしぶり。どうしたの?」
『「どうしたの?」じゃないわよ、レイカちゃん』
佐久間家の跡取り娘として、母は結婚するまでは両親に「箱入り娘」として大切に大切に育てられた。
ちなみに、武家の末裔で眉目秀麗な祖父と英国貴族の血を引く容姿端麗な祖母の「好いとこ取り」をした母は、芸能の世界へと誘うスカウトを片っ端から断りまくった、と聞く。
デビューすればきっとわたしなんかよりもずっと「売れた」に違いない。
その後、母との交際を猛反対した祖父から「婿入りするのであれば、許してやってもやぶさかではないこともない」と結局どっちなんだ?という言質を取るや否や、速攻で区役所へ婚姻届を出して「佐久間」と姓を変えた父から溺愛され、何不自由なく暮らしている。
なので、かなりおっとりした性格のためマイナスな感情とは無縁の人なのだが、今はなんだか少しムッとしているみたいだ。
『レイカちゃん、ちゃんとタケルさんのこと支えてあげられてる?』
——『タケルさん』って、だれ?
あっ、小笠原 武尊——わたしの「夫」の名前だった!
『せっかく武尊さんが帰国して一緒に暮らせるようになったんじゃないの。
もうそろそろ、おうちは片付いたかしら?
実家に置いてある服とかアクセサリーとかその他諸々、いつそちらへ持って行くつもり?』
「えーっ、片すの面倒くさいなー。もうしばらく置いておいてよ」
『なにを言ってるの。あなたはもう武尊さんのお嫁さんなのよ?』
——政略結婚の上の契約結婚の果ての真っ白い偽装結婚だけどね。
「それにしてもママ、なんでそんなに『あの人』の肩を持つのよ?」
『あら、ダメよ。自分のダンナさまをそんなふうに言っちゃ。
武尊さんはお仕事が忙しいのに、わざわざおじいちゃまたちの洋館の管理方法をパパに聞くためにうちに訪ねてこられたのよ。
本当はレイカちゃんがしなければならないのよ?』
——えっ、電話でテキトーに聞いたんじゃなかったの?
『とーっても優しくて感じの良い人よね。
おまけに、ものすごーくハンサムだし』
スマホの向こうから、ふふふっと少女のような笑い声が聞こえる。
父が聞けば、わたしの夫の命はない。