フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「じゃあ、ママ、話はそれだけね」
そう言ってさっさと通話を切ろうとすると、
『待って待って、レイカちゃん。お話はまだ終わってないわよ』
母があわてて遮った。
『先刻、武尊さんをちゃんと支えてあげられてる?って訊いたでしょ?
あなたたち、毎日のお食事どうしてるの?
まさか、まだ外食に頼ってるんじゃないでしょうね?』
母は料理教室も開けるほどの腕前の人なので「食」に関してうるさい。
祖母から伝授された「英国家庭料理」だけでは飽き足らず、家族ぐるみのお付き合いをしている老舗の洋食屋にレシピを教えてもらって挑戦するくらいだ。
母が時間をかけてじっくりつくるビストロ直伝のタンシチューは特に絶品で、父にとっては究極にして至高のメニューである。
口の中に入れるとほろりと崩れるジューシーなタンは、最近では兄の息子(わたしにとってはかわいい甥っ子)の大好物ともなっている。
なので、ついこの間までのわたしの外食三昧だったホテル暮らしは、健康面からもかなり苦々しく思っていた。
「外食なんかに頼ってないわよ。ちゃんとキッチンでつくってるわ」
わたしはロッキングチェアでゆらゆら揺れながらドヤった。
「あの人も、美味しいって食べてるわよ?」
この家に移って以来、実は毎日キッチンに立って料理をしていた。
『う、ウソっ……レイカちゃん、いつの間にお料理ができるようになったの……?』
まーったくわたしに料理を教えた記憶のない母は呆然としている。
「お湯さえ沸かせば、いろんなものがつくれるって知らなかったわ。ほんと便利ね」