フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】

小笠原がまるで裁判で被告人尋問をする検察官のように冷徹な口調で訊いてきた。

「あ、味見って……えーっと、それは……」

わたしはすーっと目を逸らした。

「まさかとは思うが……」

先刻(さっき)からコ◯ン君級の推理を展開中の彼の「読み」は冴えまくっていた。

「初めてつくった自分の料理を、味見する勇気がなかったからじゃないだろうな?」

——よくおわかりで。

「で、でもっ……このグレイビーソースはおばあちゃまのお味なのよっ!」

亡き祖母の名誉のためにも、これだけは言わなければ……!


「肉は焼くだけ、野菜は茹でるだけ、味付けは塩胡椒だけ、と揶揄される英国料理の味気なさはよく言われることだが、肉汁の旨みを含んだグレイビーソースは作り手がしっかりとつくれば味わい深くなるはずだ。
また、調理法はともかく食材に関しては他国と比べて遜色ない」

「あら、あなた英国料理に結構詳しいのね?」

すると、小笠原はフッと鼻で笑った。

——失礼ねっ、せっかく褒めてあげたのに。

「だったら……グレイビーソースはちゃんとつくれば味わい深いんでしょ?
おばあちゃまがつくってくだすったソースは、確かに味わい深かったわよ!」

そうだ、わたしは生前の祖母がつくってくれた「本物」を知っているのだ!

——わたしのつくったソースの味見はしてないけど……


「レシピノートを見てつくった、と言ってたな?
——そのノートを見せてくれ」

「えっ、でもレシピを見てわかるの?
祖母はほとんど日本語ができなかったから、英語で書かれているのよ?」

小笠原の顳顬(こめかみ)に、一瞬青筋が走ったかに見えたけれども……

——気の所為(せい)だろう。
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