フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
——もおっ、ムカつくったら……!
わたしはさっさと夕食を済ませると、食器を軽く洗って(そうしないと小笠原がネチネチとうるさいのだ)食洗機に入れた。
今夜のdishは、グレイビーソースで牛の挽き肉と野菜を煮込んだあと(英国人の食卓には欠かせない)マッシュしたポテトをこんもりと盛ってオーブンでこんがり焼いた「コテージパイ」をつくった。
「cottage」は「田舎家」という意味なので、日本語にすると「牛肉と野菜の田舎風煮込み焼き」って感じになるだろうか?
ちなみに、牛でなく羊の挽き肉を使うと「羊飼いのパイ」となる。
いつも夕食前にお風呂を済ませているわたしは、食事を終えるとすぐさま二階の自分の部屋へ逃げ込む。
夕食後は持ち帰った仕事をする小笠原にとって、わたしがいると集中できないだろうし……
——それに、特に話をする必要もないもんね。
政略結婚&契約結婚による絶賛「白い結婚」継続中のわたしたちは、もちろん寝室が別である。
主寝室は使わず、どちらも客間を寝室としていた。
各部屋に配置された家具たちは、祖父がジョージアン様式を模して造らせたもので、現在となっては技術もさることながら材料自体が入手困難だ。
ウィリアム・モリスの「Brother Rabbit」を使った布張りの一人掛けソファに腰を下ろしたわたしは、傍らの紫檀のティルトップテーブルを見た。
仕事用のAndr◯idが点滅している。
手に取って開くと、不在着信が一件あった。
——あら、めずらしい。村田さんからだわ。
最近では担当マネージャーの彼女から通話がかかってくることは、ほとんどなかった。
——何の用かしら……?
わたしは早速、村田に折り返しの通話をかけた。