この空を羽ばたく鳥のように。
「あの、喜代美にはもう会われましたか?」
お訊ねすると、八郎さまは「いや」と首を横に振る。
「では、先ほど前の通りを歩いておりましたから、まだ近くにいるはずです!呼んで参りましょうか?」
弥助を呼ぼうとすると、八郎さまは片手を突きだしてそれを制した。
「いや、喜代美の姿は見かけました。
仲間と出かけるところだったので、邪魔したくなくて声をかけなかったのです。
それよりも……さよりどのは、このあいだとだいぶ雰囲気が違いますね」
戸惑うように言われ、私の顔からサッと血の気が引いた。
(………しまった!私は普段着のままだ!)
まさか八郎さまが来るなんて思いもよらなかったから!
せっかく喜代美の姉として、いい印象を持たせることに成功したと思ってたのに!
普段の姿を見られたのが恥ずかしくて、赤くなる顔を隠すように頭を下げた。
「と……とんだ姿をお見せしてしまいました!
お恥ずかしながら、これが普段の私なんです!」
会津木綿の紺の地縞は、私の着なれた普段着。
髪にだって、飾りのひとつもさしてやいない。
なまじおますちゃんが茜色の着物に同じような色合いの櫛を髪にさしていたから、自分の地味さが余計に目立つ。
(本当に恥ずかしい……!八郎さまには見られたくなかったのに……!)
けれど八郎さまは、はにかんだ笑顔を見せて頭を掻いた。
「いえ、違います。悪い意味ではないのです。
この前のあなたはとても美しく着飾っていて、私も少し気後れしていたところでした。
だから今のあなたのほうが親しみやすくていい」
「は、はあ……」
窺うように上目使いで八郎さまを見上げると、それを受けて八郎さまは、喜代美とよく似た目元を柔らかく細めた。
ふと、喜代美も大人になるにつれ、八郎さまのような男らしい顔つきになるのかしら?と疑問が浮かぶ。
「喜代美が申していた通りだ。あなたは本当に、嘘がつけない方なのですね」
「え……?」
「兄上があまりにもさよりどのを器量良しだと褒めそやすから、喜代美が実家に帰省したおりにこう話していたんですよ。
“姉上はいつもあんなに着飾っている人ではありません。普段はなんとも地味なものです”ってね」
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