この空を羽ばたく鳥のように。
「あんたの負けよ、おさよちゃん」
それまで傍観していたおますちゃんが口をはさむ。
そうして私のそばに寄ると、八郎さまにニッコリ笑いかけた。
「おさよちゃんだって、嘘はつくんですよ。ただ自分では気づいていないだろうけど、嘘が下手なんです。
腹の中の考えがそのまま顔に表れるから、すぐ分かるんですよ」
「おますちゃんたら!もう!」
ついはずみでペチンとおますちゃんの肩を叩く。
しかしうっかり手を出すところも「粗暴な女だ」と思われたのでは、と瞬時に青ざめる。
「……ハハッ!」
こらえきれずに、八郎さまが笑声をあげた。
「たしかに!さよりどのは自分を偽れないお方のようだ!
ではまた次回お邪魔するおりは、普段のさよりどのを見せて下さいね」
「はあ……こんなのでよろしければ」
「ええ、充分ですよ。それでは私はこれで」
八郎さまは後ろを振り返り、みどり姉さまに辞去の挨拶をしてから、おますちゃんと私にも頭を下げると、笑顔を見せて帰っていった。
その颯爽とした後ろ姿を眺めながらおますちゃんが言う。
「おさきちゃんの兄君に負けず劣らずの殿方ね。
あれが、喜代美どのの兄君の八郎さま?」
「そう……」
「このあいだはお会い出来なくて残念だったから、今日はお目にかかれて本当によかったわ。
さすが喜代美さんの兄君。すがすがしい若者ね」
みどり姉さまも満足そう。
すがすがしい……そうね。すがすがしいけど……八郎さま相手だと、なんだか調子が狂う。
まだたったの二回しかお会いしていないのに、私のことをすっかりご存知みたい。
きっと、喜代美の言葉を すべて鵜呑みにされてるんだわ。
話さなくていいのに、喜代美が実家で私のことをべらべら話すから。
褒めてくれるのはありがたいけど、勝手な思い込みを相手に押しつけては困るじゃないの。
はあ、と ため息が出た。
「……おやおや。ここにも遅い春、到来かなあ?」
「おますちゃん!」
ニヤニヤ顔で私を窺うおますちゃんをジロリと睨み返したあと、恥ずかしくて顔をそらす。
違うんだから。この顔の火照りは、八郎さまに普段のままの姿を見られて恥ずかしいからで。
けして喜代美の言葉が嬉しかった訳じゃないんだから。
※笑声……笑い声。
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