この空を羽ばたく鳥のように。
喜代美が帰ってくると、夕飯までまだ間があるからと早速ぼたもちを食べることにした。
「へえ。今回はまた、ずいぶんとこしらえたものですね」
喜代美は嬉しそうに目を細める。
「お実家のご母堂さまがこしらえてくださったものを、八郎さまが届けてくださったのよ」
八郎さまが持っていらしたのは、重箱の中に整然と並んだ二色のぼたもち。
ひとつはあんこで、もうひとつは胡桃だ。
胡桃は細かく砕いて、砂糖と味噌で味つけしたもの。
私は密かにそれを狙っていた。
見た目にも美しいご実家のぼたもちと、大皿にこんもりと盛られた いつもの見慣れたわが家のぼたもちが並べられる。
「……これは?」
もうひとつ、少量のぼたもちが無造作に乗せられた皿を指し示して、喜代美が訊ねる。
母上とみどり姉さまは顔を見合わせ、何とも言えない表情をした。
ふたりとも、口元が必死に笑いをこらえている。
とても箸を向ける気になれない、お世辞にも美味しそうとは言えない、形のいびつなぼたもち達。
……お察しがつくだろう。
それはもちろん私の作だ。
不器用な私が手にくっつく餡と格闘しながら作ったというのに、あとで母上に「濡れ布巾に乗せて絞ればよかったのよ」なんて言われて、かなり落ち込んだ。
「……これは私の食べる分なのよ!」
乱暴に言って、その皿を自身の手前に引き寄せる。
私が作ったんだから、自分で責任持って食べるわよ。
本当は全部なんてとっても食べきれないから、
うちに寄ってくれたおますちゃんにも無理やり食べさせたけど。
母上はそれぞれの前に箸と小皿を用意して、
「さあ喜代美さん、お食べなさいな」
と、一番に喜代美に箸を勧める。
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