この空を羽ばたく鳥のように。



 それに気づいて、こう子さまと優子さんは敵を打ち払いながらなんとか竹子さまのもとに駆けつけたが、竹子さまはすでに事切れていたという。



 「せめて姉の首をと、懐剣で落とそうとしたのですが、なかなかできませんでした。
 戦の中の混乱もあり、わたくし達は泣く泣くあきらめ、高瀬村まで退いたのでございます」



 そう語り、あふれる涙を拭う優子さんを見つめながら、私は竹子さまの死を、どこか遠いもののことのように聞いていた。

 無意識に感情を押し殺していたのかもしれない。
 受け入れたくない現実を心が必死に拒んでいるのかもしれない。



 「さよりさん。これを……」



 優子さんは袂から一枚の紙片を取り出した。



 「姉が戦いの際に、薙刀に結びつけていたものです」



 黙ったまま受け取る。黒ずんだ血痕が残るクシャクシャになった短冊だった。この血痕は竹子さまが(ほふ)った者の血だろうか。それとも……。

 ぶるっと身震いしたあと、そこに書かれてある文字を読みあげる。




 「『もののふの 猛き心に くらぶれば
  数にも入らぬ 我が身ながらも』……」






 ――――ああ、竹子さま。


 あなたという方は。

 美しくて男勝りで、気位が高くて。

 和歌も書もできて、薙刀も強くて。

 殿方にも引けを取らない、そんな才能をお持ちでありながら。



 「数にも入らぬ わが身ながらも」



 女子の身では限られてしまう世の中で、どれほど殿方と対等でありたいと願ったことか。

 賢く分を弁えておられた竹子さまだからこそ、悔しい思いを飲み込んで女子であることに甘んじておられたのではなかろうか。


 以前 津川家の家督を喜代美に取られたと思っていた頃のことを思い出す。
 女の身では同じ位置に立てないという悔しさ。



 (竹子さま……あなたも私と同じだったのでしょうか)



 それでも最期まで自身の思いを貫かれた。
 私に誓ってくださった覚悟を全うされた。



 「竹子さま……!」



 再び両の目から熱いものが流れる。気持ちとともに溢れて溢れて止まらないもの。

 優子さんがそっと抱きしめてくれた。素直に身を預けて涙声で言った。



 「私は……私はとうとう、竹子さまに追いつくことができませんでした」




 追いつきたくて追いつきたくて。

 けれど叶わなかった。

 私にとって、憧れの女性(ひと)だった。



 「そうですね……わたくしも同じです」



 優しく背中をさする優子さんに寄りかかり、心が叫ぶまま声をあげて泣き続けた。


 竹子さま。


 結局 あなたは、私達を引き離して 遠い遠いところへ行ってしまわれた。


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