今夜、色のない君と。
「…一度だけ、この本の題名を聞いたことがあるんです」
「え、今ここで題名を読んだんじゃないの?」
「私は日本語を話すことはできるけど、読むことはできないんです。……ずっと絵の中にいたから」
「じゃあ、どこで日本語覚えたの?」
女のコは「ふふっ」と笑って、「質問いっぱい」などと言って笑っている。
「私は、絵の中にいてもずっと意識はありました。たぶん、私が描かれたときから」
「そんな……前から」
「外の世界の音はいつも聞こえていたんです。だから言葉も覚えられた」
「だから…僕の名前も知っていた…?」
「はい」