今夜、色のない君と。
「私、ずっとこの世界に憧れていたんです」
「…え?」
「絵の中からずっと、いつか行ってみたいって願ってました」
「そうなんだ」
「だから今日、この憧れていた世界に出てこれたんだと思います」
女のコは、嬉しそうに笑った。
そのとき一瞬、女のコの頬に色が見えた気がした。
ピンク色に染まっているような…。
…今は色はないけど、
まるで、さくらんぼのような女のコだと、僕は思った。
「…その本の話はね、」
「へ?」
「ある女のコが、クラスメイトの男のコに恋をするの。だけどその男のコはすごく地味で、友達すらいなかった。じゃあどうして女のコはその男のコに恋をしたんだと思う?」
「…え、えっと……」
「男のコの笑った顔がすごく好きになったんだって」
「…笑った顔」
「そ。いつもは無表情で色のない性格だけど、そのときだけは男のコの頬はピンク色で」
「…ピンク色」