打って、守って、恋して。

会社を出て路肩に停めた車のところまでやってきた私は、「夜、会える?」と尋ねた。

「今日は難しいかも。やまぎんのみんなとご飯に行こうって話してて。でもしばらくこっちにいるよ」

「いつ帰っちゃうの?」

彼の言う「しばらく」がどのくらいなのか分からないので、心積りとして聞いたのだけれど。
返ってきた返事は、思ってもないものだった。



「結婚してもらえませんか、俺と」



あまりにも唐突すぎて意味を処理するのに時間がかかり、おそらく十数秒ほど思考が一時停止してしまった。
あの問いに対する答えがそれとは、どうしてなのかと考えてしまったのだ。

「…………いつ帰るのか聞いたのに」

「あっ、ごめん。次に東京に戻る時には、できたら柑奈と入籍していたいなと思ってたから。つい先にプロポーズしちゃった」

「なんで、こんなところで」

「だって俺、サプライズみたいなの絶対できないし」

「そういうことじゃなくて」

ぶわっと涙があふれてきた。

この一年分のやきもきした気持ちと不安な気持ちが全部はちきれて、恋人なのに遠くで見守ることしかできない無力さとか、彼のためにできることなんて何もないのだという虚しさとか、そういった負の感情がすべて涙に変わって身体から出ていく。

「ほらね、こうなるって旭くんなら分かってたでしょう」

「─────待たせてごめんね」


分かってたけど、我慢できなかったんだよ。伝えたかったんだよ。

そっと抱き寄せてから、消え入りそうなほど小さな声でそう言われた。

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