打って、守って、恋して。

料理もすべて食べ終わり、飲み放題の二時間が経過。

私はその間、ずっとずっと藤澤さんと野球の話をし続けた。
なにせそれくらいしか私たちをつなぐものがない。


どちらとも話し上手ではないし、ところどころ無言になることもあり、「うわぁ、絶対つまんないと思ってる!」と感じてしまい、十分に一回はここに来たことを後悔した。
その代わり、藤澤さんが会話の端々でふと笑ったり、話しかけてくれたりすると気持ちがふわふわと宙に浮いて、五分に一回はここに来てよかったと浸った。

……いったい私はなにがしたいんだ?


居酒屋の狭いトイレの鏡の前でため息を漏らしつつ、持ってきたポーチからリップを出してささっと塗り直し、急いでテーブルへ戻ったのだが。

そこにはもう誰もいなかった。

「あれ!?」

私のバッグもないので、余計に焦る。

飲み放題の時間も終わったし料理もあらかた食べ終わったから、もう帰ろうかということになったのだ。
それで、帰る前にお手洗いに行ってきます、と沙夜さんに私の分のお金は渡したのだけれど……。

もう、お会計をしているのかもしれない。


ピンと来て混み合う店内を駆け抜けて、出入口のレジのところまでやってきた。

金曜ということもあって、満席で入れずに並んでいる人たちが目立つ。ほとんどビジネスマンやOLのような出で立ちの男女。
土日が休みともなれば、飲んで帰ろうとなるわけだ。


レジに店員さんはいたものの、肝心の沙夜さんたちの姿はない。
何がどうなっているのか把握できていないし、とりあえず今どこにいるのか確認しないと、とポケットからゴソゴソ携帯を出そうとしているところで肩を優しくトントンと叩かれた。

「あっ、藤澤さん」

振り返ると藤澤さんが一人だけ立っていて、私のバッグを持っていた。

「さっき会計は済ませたから、外に出ましょうか」

「そうだったんですね、すみません遅くなって」

「大丈夫ですよ」

バッグを受け取って、先に歩いていく彼の背中を追いかける。

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