打って、守って、恋して。
お店を出たら少しだけもわっとした夏の空気に触れたものの、東京で感じたそれとは桁違いに涼しくて過ごしやすくて、むしろ冷房の効いた室内よりも気持ちよく感じた。
小さい頃は真夏でも夜はまったく暑いと思うことなく過ごせたのだけれど、温暖化の影響なのかここ数年は寝室にエアコンが欲しいと思うこともたまにあったりする。
居酒屋を出てすぐの場所にはまだ飲み足りない人たちなのか、すでにそこそこ酔っ払った若者たちがちょっと大きな声で威圧的に騒いでいて、なかなか通り抜けられない。
ちゃんと後ろから私がついてきているかちらりと確認した藤澤さんが、小さく手招きした。
なんだろうとそばに近づくと、私の肩を抱くようにして背中を押してきた。
うっかり声が出そうなくらい心臓がバクバクしたものの、次の瞬間には酔っ払いの集団の横をなんとかすり抜けて広い通りへ出ていた。
そこで気がついた。
あぁ、酔っ払いに巻き込まれないように配慮してくれたのか、と。
私の肩にやんわりと触れていた下心ゼロ彼の手は、もうすでに離れていた。
「ありがとうございます」
「いえ、別に」
ぺこりと頭を下げても、彼はなんてことないように微笑むだけ。
そのあっさりとした対応に寂しさを感じたけれど、ここでその感情を見せてはいけない。
「あの、沙夜さんと栗原さんは?二人もトイレですか?」
居酒屋のトイレでは沙夜さんとはすれ違わなかった。私が気づかなかっただけかもしれないが。
てっきり外で待ってくれているのだとばかり思っていたのでキョロキョロ辺りを探していると、「いえ」という藤澤さんの声が聞こえた。
「二人きりで飲み直したいからと、先に行っちゃいました」
「え!?ふ、二人で!?」
「まあ、気が合ってたみたいなので」
ますます凛子に顔向けできない事実を知り、一人であわわわと慌てふためく。
沙夜さんっていくつだっけ?来年三十歳って言っていたような気がしたけど、定かではない。
もしかしたら栗原さんは、年上の魅力ってやつにハマったのかもしれない。
二人の間に恋愛感情があるなんて当人同士でなければ分からないことだが、なかなかのお似合いな組み合わせにドキドキしてしまった。