剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ああ。これは特殊仕様な造りなんだ。簡単に言えばアルコールで火を灯しているところに塩が反応しているだけさ。炎色反応(フランメンフェルブング)を利用している」

 その単語には聞き覚えがある。たしか兄の持っていた錬金術の書物で読んだ記憶がある。実物を見るのは初めてだ。

「なんなら赤や緑の炎も見せてやろうか?」

 余裕めいたクラウスにセシリアは苦笑する。しかし次の瞬間、炎がふっと消えたかのようにクラウスの表情は真剣なものになった。

「セシリア」

 真正面から名前を呼ばれ、セシリアは王をまっすぐに見据えた。

「ルディガーの大切なものの中にはお前も含まれているんだ。ルディガーを思うなら自分も大事にしろ。副官とはいえ、ひとりで抱え込みすぎるなよ。いい具合に使ってやればいいんだ」

 国王陛下ならいざ知らず、さすがに自分が上官を使うという表現は違和感がある。セシリアの顔色を読んだクラウスは気にせずに続けた。

「事実だろ。お前のためならあいつはそれこそ火の海にでも飛び込むぞ」

 それは遠慮願いたい。相変わらずクラウスの物言いは、本気と冗談の境界線がわかりにくい。不安げな色を浮かべたセシリアにクラウスはかすかに笑った。安心させるような表情だ。

「少なくとも俺が国王でいる間は、お前が心配しているような事態は起きないし、起こさせはしない。だから安心しろ。あいつを頼む」

 クラウスの言葉を受け、セシリアもようやく笑う。そして静かに目を閉じて答えた。

「……はい、陛下。謹んで」
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