剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「シリー!」

 はっきりと脳に響く声で名前を呼ばれ、セシリアは勢いよく目を見開いた。顔を上げると、辺りが薄暗くなったと認識する前に至近距離で、ある人物が視界に入る。

「大丈夫か?」

 自分は夢を見ているのかもしれない。考えを打ち消すのは、切羽詰まった表情で頬に触れてくる手の温かさだ。

 セシリアの目の前にはルディガーが腰を落とし、眉を曇らせて心配そうにしていた。

「どこか体調でも悪いのか? 怪我は?」

 矢継ぎ早の質問に現状を徐々に理解し、セシリアはぎこちなく首を横に振る。

「ベティからセシリアが外に行ったきり戻って来ないと聞いて……」

 そういえば祖母に行き先も告げずふらっと出てきたのを思い出す。かなりの時間をここで過ごしたようだ。

「ごめん、なさい。ちょっとウトウトしちゃって……」

 うつむき気味になり、早口に言い訳する。この年で、子どもみたいな心配をかけたのが申し訳ない。

「無事ならいいんだ。本当によかった」

 セシリアの頬を撫で、ルディガーが安堵の息を漏らす。居た堪れなさを感じつつセシリアはようやく彼に視線を向けた。

 目が合うと、ルディガーの顔が今にも泣き出しそうなものになる。苦しくて、セシリアは自然と再び謝罪の言葉を口にしようとした。

 しかし、その前にルディガーが力強くセシリアを抱きしめた。回された腕はきつくて、息も詰まるほどだ。突然の彼の行動に眉をひそめるも、相手の表情を窺うのもできない。
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