剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「……ルディガー、痛い」

 思わず声にするとルディガーはゆるゆるとセシリアを解放し、彼女のおでこに自分の額を合わせた。そして切なげな色を顔に浮かべておもむろに尋ねる。

「泣くほどに?」

 セシリアの瞳孔が拡大し、瞬きも呼吸さえもできずに固まる。少し間を空け、セシリアはぽつりと呟いた。

「……うん……痛いの」

 自分の発言が引き金となり一瞬にして視界が滲む。体の奥底からなにかが一気に込み上げてくる。だから続けられた声はよれよれで心許ない。

「っ、あなたが、強く抱きしめるから……。私っ」

 喉の奥がぎゅっと締まり、最後は声にならない。ルディガーは再びセシリアを包み込む形で抱きしめ直した。さっきよりも力は幾分か優しいが、それでもセシリアの言い訳になるほどには十分にしっかりとだった。

 ルディガーの肩口に顔を押し当て、セシリアは声を押し殺して涙が出るのを静かに受け入れる。悲しみだけじゃない。

 様々な感情が溢れ返って、胸の中はもうぐちゃぐちゃだ。

 セドリックとの思い出が走馬灯のように駆け巡る。最後に交わしたのはどんな言葉だった? 兄はどういった表情していた?

 ……彼は、兄の最期を見届けたんだろうか。

 わずかにセシリアが身動ぎするとルディガーが腕の力を緩める。今、自分がどんな顔をしているのかなどかまいもせず、セシリアはルディガーを見つめて問いかけた。

「あなたこそ……痛くないの?」

 ルディガーが虚を衝かれた顔になる。わずかな沈黙が走り、彼は端正な顔を歪めた。
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