剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「痛いよ」

 本当に堪えているといった感じだった。声も、表情も。それでもルディガーは口の端を上げて無理やり笑おうと試みる。

 けれどセシリアの灰色がかった青い瞳がなにもかもを見透かすかのごとくまっすぐで、かぶろうとした仮面はすぐに崩れた。

 濃褐色の虹彩が揺れ、彼は声を詰まらせる。そしてセシリアの視界から自分を消すように、強引に彼女を腕の中に閉じ込めた。

 セシリアはなにも言わずにルディガーからの抱擁を受け入れる。
 
「ごめん、ごめんな。シリー」 

 しばらくして耳元で囁かれたのは、震えた声での謝罪だった。宥めるよりも懺悔に近い。

 この期に及んでも、ルディガーが気にするのは自分のことなのだと思うと胸が張り裂けそうになった。彼だって十分につらくて痛いはずなのに。

 謝らないで。

 伝えたいのに上手く声にできない。止まっていた涙がセシリアの頬をまた滑り落ちていく。

『ああ見えて、あいつの方が難しかったりするんだよ』

 あのときのセドリックの発言がようやく少しだけ理解できた。

 取り繕うのばかりが上手くて、けっして本心には触れさせない。周りを見すぎているせいで、素直に自分の気持ちや感情も出さない。それが彼の当たり前になっていく。

 やるせなさを抱き、セシリアはおそるおそるルディガーの背中に腕を回した。

『お前が割り切れるなら、これからもあいつのそばにいてやれ。ルディガーがお前を必要とする日が必ずやってくるから』

 私が守る。私がそばにいる。兄さんの代わりにあなたを支えるから。

 胸の奥になにかが灯る。強く揺るぎのない決意をしたセシリアにもう迷いはなかった。
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