剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 ふと思い出した調子でセシリアはルディガーに向かって声を発した。

「ひとつ、質問をよろしいですか?」

「どうした?」

 まだ現状を受け入れ切れていないディガーにセシリアは感情を乗せずに質問する。

「おふたりに恋人はいらっしゃいますか?」

「は?」

 さらには想定外の問いかけが飛んできた。ルディガーが意表を突かれていると、セシリアが補足する。

「もしいらっしゃるなら、幼い頃から知っているとはいえ副官に女性である私がつくのをお相手はよくは思わないかもしれませんから……」

 セシリアの言いたい内容を汲み、ルディガーは苦笑する。

「妙な気遣いをするね。あいにくそういう相手はいないよ。おそらくスヴェンにも」

「そうですか」

 とりあえず胸を撫で下ろす。自分の存在で彼らになにか迷惑をかけるのは不本意だ。異性というのはこういうときに不便だと感じる。

「シリー」

 いつもの調子で呼びかけてきたルディガーにセシリアは瞬時に反応した。

「もうそう呼ぶのはお控えくださいね」

 セシリアはルディガーを軽くたしなめた。

「名前か、いえ姓でもかまいません。私は子どもでもなければ、あなたの妹分でもない。部下なんです。身内としての斟酌はいりません。よろしくお願いします、エルンスト分団長」

 はっきりと言い放つ彼女にルディガーは押し黙る。改めてセシリアに視線を送れば、幼さはすっかり鳴りを潜め、顔立ちも大人っぽく纏う雰囲気も凛々しい。

 一年間の訓練期間もあったからか、いつのまにか彼女は子どもでも、自分の知る妹でもなくなっている。
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