夏の魔法
「美影…」

琥白は、僕の名前を呼ぶ。それが、僕の苛立ちを増やすことを知らずに。

「じゃあ、琥白に問う…僕が怒っている理由が分かる?」

無意識に言葉を出していた。

「…琥白に分かるわけないよな。それとも分かったとでも言うの?」

ポロリと涙がこぼれ落ちる。琥白は、僕が泣くのを初めて見た…と言うような反応を見せた。

僕は、その場に座り込んでいた。涙を流しながら

「美影…!」

両親の声が聞こえた。僕は、両親の方を向くことが出来ずにその場に座り込んだまま、琥白を見ていることしか出来なかった。

「ごめんなさい」と、琥白に謝った。琥白は、「俺もお前の気持ちを知らずに声をかけて悪かった」と言った。

両親は、僕と琥白のやり取りを聞きながら呆然と立っている。

「…美影、人の目を気にしていたらダメだぞ」

父が僕の肩に手を置いた。その手の温もりは、制服の上からでも届いていた。僕は、その暖かさに、さらに泣いた。

…ダメ。声を上げて泣いたら、お母さんに怒られる…っ!

あの時と重なって見えた。涙で視界がぼやけて、前が良く見えない。

「何言ってるの。美影にとっての恐怖は…」

母がそこまで言うと、父は母の口を塞いだ。琥白に僕の過去を知られるのを恐れたからだろう。

父は、僕を担ぎ上げた。僕は「琥白に…」と小さな声で言う。しかし、泣き疲れたからか僕は深い眠りに落ちた。
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