夏の魔法
僕が突き飛ばされた日から、数ヶ月が経った。僕らは中学3年生に上がり、もうすぐで夏休みがやってくる。
そんな休日のある日、僕は英太と並んで街を歩いていた。僕は、ぼんやりとしながら道を歩く。
横断歩道にある信号を確認し、渡ろうとすると、後ろから叫び声がした。
「…あの車、赤信号なのに…!そこの少年、危ない!!」と誰かが叫ぶ。
後ろから、誰かに突き飛ばされた。その刹那、周りから悲鳴が聞こえる。僕は、そこからの記憶が無い。気がつけば、父の妹である近藤 咲輝(こんどう さき)さんが、僕に話しかけていた。僕は、公園の端の方で寝かされている。
「美影くん、大丈夫!?」
「大丈夫って何がですか…?」
僕は、頭を捻った。近藤さんが説明してくれた。
英太が僕を突き飛ばし、英太だけが事故に巻き込まれた。その光景を見た僕は、すぐに倒れ、たまたま近くにいた近藤さんが、僕を引きずってここまで連れてきた、と。
僕は、信じることが出来なかった。ずっと、頭の中で否定していた。
きっと英太が家に帰ってくる、と信じていた。しかし、いつまで経っても戻ってこない。英太が死んだ、と実感させられた。
それからが大変だった。父と母は、僕に今までよりも暴言を浴びせてくるようになった。英太のことはどうでもいいのか、他の人に任せっきりだった。
僕は、近藤さんの家に遊びに来ていた。近藤さんが、今から遊びにおいで、と誘ってくれたから。
「…お前は?」
近藤さんの家に遊びに来たのは、初めてだった。目の前に、1人の男性が立っている。
「篠原 美影です…」
「お前が美影くんか。咲輝から色々と聞いている。辛かっただろ?中に入れ」
僕は、予想外の言葉に驚いていた。この人は、近藤さんの、いや咲輝さんの旦那さんだった。
「俺は、近藤 和人(かずと)と言うんだ。よろしくな」
和人さんが微笑んだ。その笑みは、英太のようで僕は、思わず涙を流した。