Stockholm Syndrome【狂愛】


「……私を監禁した最低野郎。あんたみたいな気持ち悪いナルシスト、好きになるとでも思った?あんたみたいな人間、誰からも愛される訳ないじゃない。……とっとと死ねよ」


「……ゔ……っぐ……」


沙奈はしゃがみ、もう一度ハサミを腹に突き立てた。


もう痛みなどなく、内臓を異物が貫く感触だけが脳に伝わっていた。


脂汗が浮き出てくる。


霞んで行く視界の中に立つ、沙奈。


「正当防衛になるよね?だって誘拐されて長い間監禁されて、何回も暴力ふるわれたんだから。わたし、悪くないじゃん。このままだと殺されるかもしれなかったから刺した。立派な正当防衛よ」


薄れていく景色。


僕は目を瞑る。


そうか。


やっぱり、沙奈は、
僕を愛していなかったんだ。


……それでも。






「……あいしてる」






呟いた声は、君に届いたかな。


意識が、消えていく。















      愛して、いた。














< 47 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop