Stockholm Syndrome【狂愛】
「……私を監禁した最低野郎。あんたみたいな気持ち悪いナルシスト、好きになるとでも思った?あんたみたいな人間、誰からも愛される訳ないじゃない。……とっとと死ねよ」
「……ゔ……っぐ……」
沙奈はしゃがみ、もう一度ハサミを腹に突き立てた。
もう痛みなどなく、内臓を異物が貫く感触だけが脳に伝わっていた。
脂汗が浮き出てくる。
霞んで行く視界の中に立つ、沙奈。
「正当防衛になるよね?だって誘拐されて長い間監禁されて、何回も暴力ふるわれたんだから。わたし、悪くないじゃん。このままだと殺されるかもしれなかったから刺した。立派な正当防衛よ」
薄れていく景色。
僕は目を瞑る。
そうか。
やっぱり、沙奈は、
僕を愛していなかったんだ。
……それでも。
「……あいしてる」
呟いた声は、君に届いたかな。
意識が、消えていく。
愛して、いた。