海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「父ちゃん、落ちぶれんなよな! 間違ったって商売、つぶしてくれるなよ? 私が異国の珍しい物をいっぱい抱えて帰ってくる。だから商品棚の一角を空けて待っててくれ!」
「待ってるさ。何年だって、商売しながら待ってるさ」
「父ちゃん……」
 長い抱擁を解いた時、父ちゃんの目にも薄く涙の膜が張っていた。
「エレン、くれぐれも体には気をつけるんだぞ。それから、これを持っていきなさい」
 そう言って父ちゃんが、私になにかを差しだした。
 反射的に受け取って見下ろせば、それは革袋のペンダントだった。
「これなに?」
 革袋の口を開こうとした私を、父ちゃんが制した。
「なに、お守りだ。中身を覗く無粋は、今はしないでいい。だがエレンが窮したとき、これが力になるだろう」
 父ちゃんの言葉はよくわからなかった。だけど両手に握り込めば、父ちゃんの愛が滲むような心地がした。
「うん、わかった! じゃあ、中身を見ないで済むようにがんばんなきゃな! 父ちゃんありがとう、いってくるよ!」
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