海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「この疼きは、実際に踏みだして満たしてやらなきゃ、いつか私を焼き尽くす。だから父ちゃん、私は行くよ」
「俺はかつてお前に海の向こうの話をしたことを、どれだけ後悔したかしれないさ」
 父ちゃんが目を細め、苦笑と共に小さくこぼす。
 やはり父ちゃんは、私の好奇心に火をつけてしまったことを後悔していた。
「……ごめん、父ちゃん」
 私はこぼれそうになる涙を、意地でもこらえた。自分で決めたことだから、私が涙するのはおかしいだろう?
 だけど今では、父ちゃんに聞かされたあの一件はきっかけにすぎなかったと思っている。私は父ちゃんに聞かされずとも、いつか広い世界を夢見ていたに違いない。
「まったくお前は誰に似たのか……。エレン、必ず帰ってこい!」
 一歩分の距離を縮めた父ちゃんが、ギュッと私を抱きしめた。
 年頃になってから、こんなふうに父ちゃんと抱き合うのは初めてのことだった。こらえていたはずの涙が、父ちゃんのシャツに吸い込まれた。
 私も父ちゃんの背中に両腕を回し、きつく抱き返す。
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