海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
私はペンダントを首から下げると、シャツの中に押し込んだ。
そうしてあえて軽い調子で、父ちゃんに向かって手を振った。
「あぁ行ってこいエレン! お前の目に、きらめく世界を映してこい!」
父ちゃんのエールに力強くうなずいて応え、私は十七年間、慣れ親しんだ自宅を後にした。
振り返れば父ちゃんに涙を見せてしまう。だから私は振り返らなかった。
それでもうちに続く角の道を曲がる直前で、どうしても耐えきれなくなって、木陰に身を隠した。
そうして振り返って仰ぎ見た自宅の二階、窓からほんの一瞬だけ見えた金色に涙があふれた。
それは私の髪色とよく似た、太陽に透ける淡い金髪。その髪を持つのは母ちゃんだ。
どうやら母ちゃんは、二階の窓から私の出発を見送ってくれていたようだ。
「母ちゃん、……ごめん」
母ちゃんは、すっかり短くなった私の髪を見た時、泣き崩れた。
海に出るにあたって、私は長年伸ばし続けた髪を切った。長々しい髪では船に乗れない。だから私は迷わずそうした。
別段、それを悲しいとも思わなかった。むしろサッパリしていいと、私にとって髪の長さというのは、そのくらい些末なことだった。