海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 アーサーさんってあんな、この世の恐ろしい物をすべて寄せ集めたかのような凶悪な顔面だったか!?
 カツカツと靴音を響かせて大股で歩み寄るその人は、私が一昨日乗船証を受け取った商船の船長に間違いない。
 ないのだが、歩く凶器か!? という今のそれと、一昨日の柔和な印象とが、あまりにかけ離れていた。
 私は内心で、ものすごくビビる。
 ……大丈夫だよな!? アーサーさんって、ヤバイ人じゃないんだよな!?
「俺の船の乗組員に用があったか?」
「いえいえ! ちょっと坊主が迷子だってんで、道を教えてやってただけですぜ!」
 ギロリと睨み上げられた漁夫の男は、一目散に逃げ出した。
「エレン」
「ハイッ!?」
 漁夫の男が行ってしまうと、アーサーさんの鋭い視線が、今度は私に向けられた。
 凶器のごとき眼光に、私は猫の子のように縮み上がり、声が裏返った。
 ……私も、逃げ出したいっ! 紛うことない本音はそれだ。
「まったく、お前は危なっかしくていかん」
 頭上から、特大のため息が聞こえたと思った。
 次の瞬間、私はアーサーさんの肩に小麦袋のように抱えられていた。
「え!? わたっ、……っと、俺、自分で歩けるよ!?」
「言ったろう? 船はもう、出航時間だ。お前の鈍足を待っていられないからな」
「俺は別に鈍足じゃっ……グヘッ!」
< 15 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop