海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 私は高ぶる思いの落としどころを、見失っていた。
 ――カタン。
「エレン、それ以上船長を貶める発言は慎んでください。俺は船長が、船内という閉ざされた空間で、紅一点のあなたを守ろうと、いかに心を砕いて奔走してきたかを知っています。ですからそれ以上は、俺が許しません」
 いつから聞いていたんだろう。視線を巡らせれば、船長室の入口にマーリンさんが立っていた。
「マーリンさん」
 マーリンさんはゆっくりと歩み寄ると、私の肩をトントンッと優しく叩いた。
 ……あぁ、そうか。マーリンさんまでもが知っていたのか。
 知っていて、その上でふたりは私のために尽力してくれていたんだ……。
「悔しい気持ちはわかります。けれどそれを船長にぶつけるのは、違いますね?」
 マーリンさんの眼差しは、厳しくも優しい。窘めるだけじゃなく、マーリンさんが示す共感が、高ぶる思いの温度を下げる。
 胸の中、ぐるぐると出口を見出せぬままに渦巻いていた感情が、段々と静まっていくのがわかった。同時に、私が今、取るべき行動も自ずと知れる。
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