海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 えっ!? なぜかアーサーさんが、私に向かって直角に頭を下げた。
「今思えば、もろもろの違和感は最初に会った時から感じていたのだと思う。だが確信を得たのはエレンが甲板で吐いてしまい、やむを得ず着替えさせた時だ」
「それって航海初日!?」
「すまん」
 目の前が、白黒した。
 だって、返ってきた答えはあまりにも予想外のもの。
「どうして? どうしてそこからずっと黙ってたんだよ!? かれこれもう一カ月じゃんか! その間ずっといろいろ力を尽くしてって、そんなのって人がよすぎるだろう!?」
「いや、そうではない。俺がエレンを守りたかった。他ならない俺の手で、それがしたかった。その役目を他の誰にだって、譲り渡す気などさらさらなかった。エレンを守るのは、俺でなければ嫌だった」
「な、なんだよそれ! ヘンな理屈! もういいよっ」
 それ以上は聞くのが躊躇われて、早々に尻尾を巻いて逃げた。
 ……だって、聞けるわけがない。
 アーサーさんが私にそうも心を砕くのは、船長としての義務感や責任感が理由ではあり得ない。私が女とわかっても、船内の秩序だけを考えれば、人任せでよかったんだから。
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