海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

***

『ハァッ!? 部外者を船に乗せる!? しかももう、乗船証まで渡してる!?』
 エレンの乗船を告げた瞬間、副船長のマーリンの人を食うような目線が突き刺さり、直視するのがつらかった。
『その、あれだ。行きがかり上、仕方なかったんだ』
 弁明する俺の目線は、どうしたって明後日の方向に泳いだ。
 エレンを見つけたのは、ほんの偶然。
 あれは出航を前に、最後の調整に船を訪れた帰りだった。港で所在なさげに停船中の船を仰ぐ、少年の美しい空色の瞳に釘づけになった。
 俺は足を止め、少年を見つめた。よくよく見れば少年はその瞳だけでなく、社交界の令嬢たちも足元に及ばないくらい、美しい顔立ちをしていた。
 紅のひとつも刷かずとも、鮮やかに色づく唇。アーモンドの形をした二重の目は、抜けるような空と同じ色をして、サラサラと日に透けて輝く金髪と相まれば、女神もかくやという美しさだった。
 思わず喉がゴクリと鳴った。
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