海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 けれど少年の美しさに目をつけたのは俺だけではなく、そこかしこから下卑た思惑を持つ男たちの視線が、少年に注がれていた。
 ひとりの男が少年に声をかけようとするのが目に留まった。そいつは違法な奴隷売買と麻薬密輸の疑いのかかる船の船長をしている男だった。乗組員への仕打ちは横暴で、航海中に多くの死者が出ることも、巷では有名な話だった。
 俺はタッチの差でふたりの間に割って入り、少年に乗船交渉という名の説得を試みた。
 俺は航海の厳しさをこんこんと説いたが、エレンと名乗った少年は譲らない。
 エレンは海を越えた先に広がる世界に懸ける思いを熱く語り、屈さずに俺に乗船を請うた。その姿に、俺は一本筋の通った芯の強さを感じていた。
 なんとか思いとどまらせようと説得に励む反面、エレンの確固とした意志は俺の目にまばゆく、同時にエレンの凛とした瞳の美しさは、どうにも俺の胸を落ち着かなくさせた。
 結局、どうしたってエレンの決意が覆らないことを悟り、根比べに折れたのは俺だった。
 俺の船はある目的をもって運航しており、そこに部外者を招き入れるなど、本来ならば論外。
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