海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
私のこの言葉には、アーサーさんがハッとした様子で口をつぐんだ。
どうやら私の主張は、受け入れられたようだ。皆が同じ条件で乗船する船の中、ひとりを特別扱いしては、和が乱れる。逃げ場のない船上で、悪戯に乗組員の鬱屈や不満を募らせれば、船の正常運航に支障をきたす芽にだってなり得る。だからそんなことは、しちゃいけない。
「……ならば俺が、今日はエレンと交代しよう」
「え?」
私はアーサーさんがなにを言っているのかわからなかった。
仰向けに寝転んだまま、コテンと首を横にかしげた。
「役目は絶対だが、代理を立てることは可能だ。物事は賢くやらねばいかんからな」
まさかの提案に、私は鳩が豆鉄砲を食ったように、半分口を開いたまま固まった。
そんな私を見下ろしながら、アーサーさんは自分がした提案がさも名案だとばかりに、うんうんと首を縦に振りうなずいていた。
「……船長って普通、料理なんてするのか?」
硬直が解けて、思わず漏れ出た疑問。
「ふむ。白状すれば、これまでフライパンひとつ握ったことがない。しかしまぁ、刃物の扱いは得意といえば得意だ。だからまぁ、きっとなんとかなる」