海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 長湯をしてなお、顔面を蒼白にして言い募る父ちゃんをひとり残し、私は風呂場を後にした。
 本当は振り返り、安心させるような台詞のひとつやふたつ、言ってやるべきだとわかってた。
 あきらかに父ちゃんは、私に話して聞かせたことを後悔して落ち込んでいる。
 だけどどんなに取り繕ってみせたって、結局それはその場しのぎにしかならないことを、幼心に確信してた。
 だから私は背中を向けたまま、父ちゃんに答えなかった。だって、答えられるわけがなかった。
 同年の子らとする遊びより、教会の神父がする講義より、新しい世界が私を夢中にさせた。
 幼い心はもう、決まっていた。
 私が私の目で、父ちゃんが見たのと同じ、広い世界を見てやろうと思った――。


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