海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
あれから十年の時を経ても、私の決意は変わらなかった。
どころかその月日が、私の思いをいっそう確固たるものにした。そうしてついに、私は出発の日を迎えていた。
玄関を出て、十七年間住み慣れた我が家を振り返る。
そこに母ちゃんの姿はない。
幾度か激しくぶつかって、結局母ちゃんは最後まで、私の船出には反対だった。
これまでぶつかり合う私と母ちゃんに、父ちゃんが口を挟んだことは一度もない。だけど父ちゃんが本心では、母ちゃん同様、私の船出に反対なのはわかりきっていた。
だから私は、そんな父ちゃんが見送りに立っていることに驚いていた。
「父ちゃん!」
父ちゃんが目を細め、私を見上げた。
「……エレン、母さんの気持ちをくんで、その上でも行くんだな?」
「うん、私はもう決めてる。母ちゃん泣かせるのは、本当に胸が苦しいんだ。だけど私の胸の中で、夢もまた苦しいくらいに疼くんだ」
クシャリと顔をゆがめて私を見る父ちゃんの顔が、記憶の中のそれよりもずいぶんと老け込んでいることに気づく。
私は遅くできたひとり娘で、父ちゃんはもうじき六十にもなる。そんな両親を悲しませる親不孝に、身を切られるような思いだった。目頭がジンと熱を持ち、わずかにでも気を緩めれば熱い物があふれそうになる。
だけど私は譲れない夢を、持ってしまったから……。