上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※

さすがに残業をする気力は残っていなくて定時を過ぎたあとはパソコンの電源を切って帰り支度を始めた。

「亜子、何かあったら電話してね」

立ち上がり鞄を手にすると心配した顔で近づいて来た雅に少し笑顔を見せて「うん」と一言頷き私は会社を後にした。


いつもならこんなに早く帰れる時は、好きな洋服のお店を見たりカフェで好きな飲み物を飲んでゆっくりしたりするけれど、とてもそんな気になれずそのまま自宅へ向かう。

朝は雅のおかげでずいぶん楽でいられたけれど1人になるとマイナスの事しか頭にうかばなくなって自然に歩く速さも遅くなっていく。


いつもなら駅を出てから自宅まで10分もかからない道のりなのに、今日はやけに遠く感じる。

ようやく自宅マンションが見えた頃、道路脇に停めている車の横で立ったままの人影が見えてきた。

その人影は急にこちらに向かって歩き始め私は思わず立ち止まってしまう。


「どうして……」

「やっと捕まえた」

結城課長は私の手首を掴み真っ直ぐな瞳で見つめたあとゆっくりと口を開いた。


「話を聞いてほしい」

真剣な表情で少し強張った声音が、今の私には高圧的に感じて身体が緊張していくのを感じる。



「亜子……」


「……話しをした方がいいのは分かります。でも……今日はすみません……このまま帰らせてくださいっ」


突然すぎて頭が混乱している今はとても話しを聞ける状態じゃない。
掴まれた手首を振りほどき軽く頭を下げて私はそのまま部屋まで逃げてしまった。




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