365日のラブストーリー
 名残惜しさを振り切って、有紗が神長に声を掛けたのは、信号が青に変わって車が動き出してからだった。

「やっぱり家までだと大変だと思うので、次に止められそうなところで降ろしてもらえれば大丈夫ですよ。この辺もあまり歩いたことないし、探検してみるのも面白そうだなって」
「まだ、店も開いていませんが」

「わたし町並み見ながら歩いたりするの、結構好きなんですよ」気を遣わせないように明るい声を出してみる。

 神長は車を路肩に寄せて停めて、ギアをパーキングに入れた。ここで降ろしてくれるらしい。有紗はシートベルトを外してから神長の方に身体を向けて、頭を下げた。

「今日は素敵な時間をありがとうございました」
「すみません」

「そんな謝らないでください。わたしほんとうにすごく楽しくて――」
「いえ、意味が違います」

「へ?」
 シートに背をつけて寄りかかり、神長はハンドルから腕を降ろす。首を傾けてまっすぐ有紗に視線を向けてきたが、強い目線に囚われたのも束の間だった。

「気が向かなければ結構ですが」
 決まりが悪そうに視線を外し、神長は髪に指を通した。それからどこかあらたまった声で言葉を継いだ。

「もしよかったら、今日はこのまま俺の気分転換に付き合ってくれませんか」
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