365日のラブストーリー
「これ、ぜったい心暖好きだわ。とっとこう。いっこ有紗ちゃん食べれば?」
「いえいえ、それは森住さんのですから」

「でも、自分の好きなやつ買ってきたら、普通に食いたくない? じゃあ一緒に食べようよ」

 言いながら皿の上にケーキを取って半分に切る。それから有紗の前に出してきた。千晃の手が、有紗の手に触れた。

「手が冷たいな」

 千晃はなんとなく落ち着かない様子でソファを立ち上がって、キッチンに向かう。インスタントのドリップでコーヒーを落として、マグカップを二つ持って戻ってきた。

「ありがとうございます」
 両手でカップを包み込む。じんわりと指先に体温が戻ってくる。

 千晃は「うめえ」と、作業のようにフレジェを食べて、それから残り半分を有紗の前に置いた。

 彼も美味しいものが好きだ。手が早くなるのは、このケーキを美味しいと感じたからなのだろう。

けれど有紗は千晃を見て、この人にはきっと神長のように生産者や作り手への想いのようなものまでは考えたことがないだろうと思った。
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