365日のラブストーリー
「ありさちゃん、あっちにピンクのいるよ」
 突然別の水槽を指して、心暖は破顔した。千晃とそっくりな涼しげな目が糸のように細くなる。

「あ、ウーパールーパーだね。本物見るの、初めてかも」
「へんな名前」
 声を立てて笑い出す心暖の口を、後ろから千晃が手で塞ぐ。

「心暖だめ、こういうところで大きな声だしたら。お魚もびっくりしてる」

 すると途端に心暖は口を閉じた。それでも我慢できずに唇の端をにっとつり上げると、水槽の中のピンク色の生き物と同じ表情になった。

 有紗がつい声を立てて笑うと「おさかなびっくりしちゃうよ」と千晃の言葉をそっくり真似て、心暖が諭してくる。

 今は自然に笑えている。けれどもそれは、きっとずっと続かない。たぶんこの波は何度も何度も、繰り返すのだ。

「有紗ちゃん、ここ出たあとなんだけどさ」
 いったん言葉を切って、千晃は視線を逸らした。

「うちに来てくれないかな。……心暖が、有紗ちゃんに渡したいものがあるって」
< 283 / 489 >

この作品をシェア

pagetop