365日のラブストーリー
「のんびり行きましょうか。夕焼けにちょうど良い時間ですから」
「わあ、夕焼けですか」

「普段はなかなか見られないですよね」
「そうですね」

 いつのまにか、始めたばかりの時間を楽しんでしまっている自分がいて、有紗は驚いた。ついさっきまで、これを最後にするための準備をしてきたというのに、神長は心の壁をするりと乗り越えてきた。

(ああ、なにを普通に楽しんでるんだ、わたし)
 気持ちを引き締めなければ。今日は浮かれている場合じゃない。

「綿貫さん」
「あ、はい」

 神長の手がさっと出された。有紗は神長を見上げた。この間のことをもう忘れてしまったのだろうか。そう思ってしまうほど、優しげだ。

「手は、恋人同士が繋ぐものかと」流されるまいとして有紗が言う。

「それでは、この間はなぜ手を繋ぎたいと言ったのですか?」神長は差し出した手のひらを引っ込めるそぶりも見せなかった。
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