365日のラブストーリー
「神長さん。あれも西洋館ですか?」
「いえ。あれはたしか気象台ですね」

「気象台? あはは、名前しかわからないや」
「気象台というのは天気や地震の観測など行うところです。ここでは風速や気温、湿度、雲の種類……、あとは生物季節観測とか」

「生物季節観測……?」

「わかりやすいのは桜の開花宣言ですかね。標本木という、開花の基準にしている木があるんですが。標本木の桜の花が五、六輪咲いたら開花宣言になります。それを観測するのも気象台の仕事です。たしか、神奈川の桜の標準木が建物の向かいにあったと思ったのですが」

「あ、見てみたいです。……ああ、でも、ここからじゃ見えないですね」
 道は途中でロープに阻まれている。

「平日だったら入れたはずですよ」
 さっそく、また来てみたい場所が増えてしまった。神長と一緒にいると次から次へと好奇心が湧いてきてしまう。

「でも、平日はいつも仕事ですから」

 ほんとうは、土曜日出勤で他の曜日に代休をもらえる日もあるから、不可能ではないのだが、万が一にも誘われないようにと、有紗は小さな嘘をついた。
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