365日のラブストーリー
「俺は横浜港を見下ろすロケーションが好きなんですけれど、県外から来る人にとって展望台は少し期待外れかもしれません。落ち着いた雰囲気で、気持ちの良い場所なんですけれどね」

「楽しみです。神長さんの好きな場所なら、わたしもそこが好きな気がします」
「そうですか」
 神長は俯いた。

 何を考えているのだろう。宇美からはよく『その人の本性はひとりで物思う横顔に現れる』と、よく言われているが、神長には心の隙が見当たらない。

 今はこれまでと何も変わらずに話すことができている。けれどもよく考えたら、そのほうがおかしいのだ。ここ数週間のうちにたくさんの出来事があった。千晃との一件を、神長が何も感じないはずはないのに、その話を始めるそぶりも見せない。

(話しても誰にもなんのメリットもないから? それともありのままを話せばわたしが苦しむから? 過ぎたことは掘り返さないとか)

 思いつくそのどれもが、自分に対する優しさだと思うと心苦しい。そうやって溜め込んだものをどこで発散させるのだろう。
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