365日のラブストーリー
「えらいなあ森住さん。わたしだったら絶対に実家に帰って親に頼っちゃう」
「千晃でいいよ」

「いえ、でも会社で呼び間違えたら大変なので」
「別にいいんじゃね?」

 千晃は軽く笑いながら、六つに切り分けたりんごを次々とおろし金で擦っている。

「ま、俺の出向が終わって、職場で会わなくなってからでもいっか」
 食洗機からプラスチックの器を出してりんごを盛ると、スプーンを挿す。

「心暖先に食事させてくる。ちょっと待ってて」
「わたしも心暖ちゃんに会ってもいいですか? 心配で」有紗は立ち上がった。

「いいけど。……大丈夫?」
「健康だけが取り柄なんです。周りが風邪でも、ぜんぜん大丈夫なんです。ほんとうに自分でも不思議なくらい」

「そっか。ならいいけど。もし風邪引いたら、俺がそれもらえばいいしな」

 にやりと口角を上げる千晃を不思議に思いながらも、有紗は頷いた。
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