わたし、BL声優になりました
「お疲れ様です。赤坂さん」
午後二時過ぎ、オーディションの合否を聞くために事務室を訪れると、いつもは冷静沈着な赤坂が珍しく慌てていた。
何事かと様子を静観していると、赤坂がゆらぎの姿に気がついた。
そして、駆け寄ったかと思うと突然彼女の両肩を掴み、大きく揺さぶった。
力加減が出来ていないのか、掴まれた箇所が少し痛む。
「ああ! 白石くん、良いところに! 落ち着いて聞いてね。実は……」
「あ、赤坂さん、痛い。痛いです。どうしたんですか? 黒瀬さんが何かしたんですか?」
「違う違う。そうじゃないんだ! 大抜擢だよ、白石くん!」
「へっ……?」
大抜擢とは一体どういうことだろう。
あまりにも唐突で話が見えない。
前にもこんなやり取りが有ったような既視感に襲われるが、今はそれどころではなかった。
興奮してやまない赤坂をたしなめるべく、ゆらぎは優しくさとす。
完全に立場が逆転していた。
「赤坂さん、少し落ち着いてください。何があったんですか?」
「ああ、ごめんね。私としたことが、嬉しくて取り乱してしまったようで……」
少し落ち着きを取り戻した赤坂は、ゆらぎの両肩を掴んでいたことに気付き、申し訳なさそうに謝罪をした。
「いえ、それは気にしませんが……。尋常じゃないくらい慌ててましたよね」
「そうです! 実は白石くんにオファーが来たんですよ。しかも、主役です!」
「え? 主役? ……赤坂さん、一体なんのコネを使ったんですか……」
無名の新人が突然、主役を貰えるなんてことは通常では有り得ない。
あの黒瀬でさえ、苦労していた時期が有ったとラジオで発言していたばかりだ。
となると、赤坂が何らかのコネを使ったとしか考えられない。
……流石にそれはどうなんだろうか。
「コネとかではなく、監督からの直接的なオファーですよ。ほら、数日前にセメルくんとラジオ収録をしたでしょう。その時に監督さんがその現場にいたようなんです」
「はぁ……、なるほど」
勿体振らずに簡潔に話をして欲しいが、興奮冷めやらぬ赤坂には、生憎そんな余裕はないようだ。
仕方ないので、ゆらぎは大人しく話を聞くことにした。