恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
そうして一樹を見ていると、彼がふと立ち上がった。どこへ行くのかと思いつつ背中を見続けていると、一樹はラウンジから出ていった。
(帰ったのかな……)
梓は、ホッとしたような、寂しいような気持ちに包まれる。
「梓さん? 聞いてますか?」
「えっ、あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしていました。お酒のせいかな」
そう言って愛想笑いを浮かべ、ハードボイルド小説の話に乗る。
遠藤は、暗い過去を抱えたヒーローがそれを乗り越え、いかにカッコよく悪役と対峙していくかを楽しそうに語る。
その小説を読んでいない梓が黙って聞いていると、バッグの中でスマートフォンが着信を知らせて鳴り始めた。
誰だろうと思いながら、「ちょっと失礼します」と遠藤に断り、席を立ってラウンジの外へ出た。
画面に表示された名前を見てドキッとさせられる。一樹だった。
「もしもし」
そう応答するや否や、通話が切られる。
(あれっ? どうして切れちゃうの?)