恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「私、偽りの婚約者をクビになったんですよね?」
「そうだな」
「……ですから、最後の挨拶を」
「偽りをやめて本物にするって意味だ」
言うなり、一樹が梓の肩を引き寄せる。もう片方の腕が梓の身体に巻かれ、強く抱きしめられた。
(本物にするって……まさか、本当の恋人?)
一樹の言葉がにわかには信じられなくて、梓はなにも答えられない。
予想していたことと正反対の展開が訪れ、頭が混乱する。
「梓がべつの男と一緒にいるのを見て、気が狂うかと思った。俺の梓になにしてんだって、すぐに奪ってやろうかとも思った。でも、そんなカッコ悪いところを見せたら、梓に幻滅されるだろう? だから努めて冷静に、梓を連れ去った」
一樹の腕に抱かれ、その口から奇跡のようなことを聞かされた。
見せつけられた独占欲に梓の胸が熱くなる。
そっと引き離されて見つめ合った一樹の瞳が、熱を帯びて揺れている。
「梓が、たまらなく好きだ」
「……本当ですか?」