恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
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翌日の土曜日、梓を迎えにきた一樹が向かったのは、陽子の店、忍び草だった。
真剣に付き合う以上、きちんと挨拶をしておきたいと、一樹に強く希望されたのだ。
忍び草は、梓の自宅がある最寄り駅から歩いて五分の商店街にある。
平屋の店構えは、祖父の代に建て替えたきりで老朽化は多少進んでいるが、手入れをまめに行っているため見た目は小綺麗だ。
商店街は全国的に衰退しているらしいが、この街のそれはシャッター通りにならず、賑わっている方ではないかと梓は思っている。
開店時間の午後五時を待ち、暖簾をくぐって梓が店内に入ると、着物の上に割烹着を着た陽子は「あら、どうしたの?」とカウンターの中で驚いた。
そのうえ、梓の後から先日ホテルで紹介された社長である一樹が現れると、慌てふためいた様子でホールに出た。なにが起こっているのか、どう声をかけたらいいのかわからないといった具合に、梓と一樹を見比べる。
「先日は、ホテルでお会いできて光栄でした。今日は改めまして、梓さんのお母様にご挨拶をと思い伺った次第です」
「あの、それはえーっと……?」
陽子の目が泳ぐ。それでもまだ理解できていない感じだ。