恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

楕円形をしたバスタブからは、甘い香りのバスソルトが匂い立っている。梓を思って一樹が入れてくれたのかとうれしくなる。

今夜は一樹と、ふたりきりの夜を過ごす。そう思うと、緊張と期待が入り交じってなんとなく落ち着かない。
この前の夜は突然だったから心の準備ができず、それがかえってよかったのかもしれない。

(あぁ、どうしよう。緊張しちゃう……!)

音も立てずに静かにバスタブに浸かり、はやる気持ちを宥める。ゆったりと足を伸ばし、大きく深く、息を吐いては吸う。それを繰り返ししてから、「よし」と上がった。


入れ違いでバスルームに入った一樹は、ものの十分と経たないうちに濡れた髪のまま出てきた。
せっかくいい香りのお風呂なのにと思いながら梓がソファから見つめていると、一樹はごしごしとタオルで頭を拭きながら隣に座った。


「ところで梓、本当にアイツに自分から言えるのか?」
「……なんのお話でしょうか?」


小首を傾げて梓が尋ねると、一樹は「遠藤不動産の」と続けた。
どことなく不機嫌な様子に見えるのは梓の気のせいか。

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