恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
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その日の夜、梓は自宅の自室のベッドに座り、クッションを抱え込んだ。バッグから取り出した名刺を見ながら、スマートフォンのキーパットを慎重にタッチしていく。
相手は遠藤。陽子から恋人としてどうかと紹介された人物だ。
自分がはっきりした態度をとらなかったのが原因。一緒に会うと言ってくれた一樹を梓は断った。
難色を示した一樹だったが、直接会わずに電話で済ませることを条件に納得してもらえた。
コール四回目で繋がった電話に「佐久間梓です」と名乗ると、遠藤はその声を弾ませる。
『梓さん! こんなに早く連絡をもらえるなんてうれしいですよ!』
先に喜ばれると、なかなか切りだしにくい。
「先日は失礼しました」
『あぁいえいえ。こうしてお電話をくれたんですから、気にしないでください』
電話の向こうで遠藤が手をひらひらと振って笑っている姿が目に浮かぶ。
かといって、ここで本題を言わずに引き上げるわけにはいかない。